感覚をつないでひらく芸術教育を考える会
第11回 研究発表会


ワークショップの光景


2017年3月20日(月・祝) 
兵庫教育大学 神戸ハーバーランドキャンパス 兵教ホール




 感覚をつないでひらく芸術教育を考える会 第11回 研究発表会が,兵庫教育大学 神戸ハーバーランドキャンパスの兵教ホールで開催されました

 司会は光徳幼稚園の椋田敏史 園長です。


オープニングの基調提案は兵庫教育大学の 初田隆 先生です。


 アウトサイダーアートの作家・アドルフ・ヴェルフリを取り上げて,西洋の伝統的な芸術の表現である文学・音楽・美術という枠組みの訓練を受けていない人,或いは芸術教育のシステムから疎外された人によって制作された「アール・ブリュット」に関する話でした.

 既成の表現形式に捉われず,心の内側から湧き上がる深層イメージを衝動のまま表現して鑑賞者にダイレクトに伝えることを考えさせられる提案でした.


 アドルフ・ヴェルフリの作品を紹介しながら,ヴェルフリが描いた楽譜を基に兵庫教育大学 木下千代 先生が演奏をされました.




 基調提案に続いてワークショップ,最初は遊び歌作家.ピアノ講師の 藤本ちか さんによる『歌おう,踊ろう,遊び歌!』です.木下千代先生からの講師紹介です.


参加者が椅子から立ち上がって,身体表現のワークショップです.



 「おはよう〜♪ おはよう〜♪ お・は・よ〜〜♪」と歌いながら,2〜3人でゲームをしたり・・・


BGMにあわせて,さらに多様な身体表現が続きます.


そして,遊び歌を歌いながらの踊りが続きます.


 柔らかい布を使って歌いながら布を動かします.布の動きにあわせて即興演奏,最後は大きく上へ飛ばします.




 2つ目のワークショップは兵庫県現代詩協会会員,兵庫県歌人クラブ会員の 野田かおり さんによる『春のオノマトペを旅する』です.木下千代先生からの講師紹介です.


 オノマトペは日本語ではなく,フランス語の「onomatopee(オノマトペ)」で,ギリシア語の「?νοματοποι?α(オノマトポイーア)」がルーツだそうです.オノマトペは,ものの音や声などをまねた「擬声語(擬音語)」と,状態や感情などの音を発しないものを字句で模倣した「擬態語」を指し示す言葉だそうです.

 実際に詩歌にみられるオノマトペとして現代詩や短歌そして俳句の例を挙げての説明がありました.


 オノマトペの説明の後に,実際に参加者がオノマトペをつくるワークショップでした.孟浩然の漢詩「春暁(春眠暁を覚えず)」,そして松尾芭蕉の「奥の細道」の中の俳句「行く春や鳥啼き魚の目は涙」を,それぞれオノマトペで表現する課題を参加者が考えて発表しました.




 ワークショップの最後は打楽器奏者で大阪芸術大学非常勤講師の 前川典子 さんによる『全身で感じるサンバ』です.最初に木下千代先生からの講師紹介です.


 最初にサンバで使う楽器の説明がありました.ブラジル風のドラム・スルドです.


 サンバで使うタンボリン(ブラジル風のタンバリン)は,叩き方でいろいろな音が出るという実演がありました.


 4つの楽器は,それぞれひとつずつしかないので,参加者はオノマトペによる口演奏をすることになり,参加者を4つのグループに分けて,それぞれのグループが担当の楽器をオノマトペによる口演奏をする練習がはじまりました.


 サンバの軽快なリズム感をオノマトペで口演奏するするのはむつかしく,何度も繰り返し練習を続けました.


 4つのグループが担当楽器を変えて繰り返えして練習すると,リズム感が出てきました.

スルドは 「ウッ ド〜〜ン♪ ウッ ド〜〜ン♪」

タンボリンは「トントントン♪ チッ♪ トントントンチットン♪」

シェイカーは「シャカシャカシャカシャカ〜♪」

アゴゴは「トンチチチ〜♪ トトトッ チッチチ〜♪ トト〜♪」


 オノマトペによる口演奏ができたので,次のステップでリズムにあわせて身体を動かします.


 オノマトペでビートを刻んだサンバのリズムにあわせて身体を動かすのが,だんだん様(さま)になってきました.


 次第に会場全体がサンバの雰囲気に包まれてきました.


 最後はドラムとホイッスルも使って,参加者はオノマトペで「ウッ ド〜〜ン♪ ウッ ド〜〜ン♪」,「トントントン♪ チッ♪ トントントンチットン♪」,「シャカシャカシャカシャカ〜♪」,「トンチチチ♪ トトトッ チッチチ♪ トト♪」と口演奏をしながら,サンバのリズムに浮かれていました.


 しばらく踊ると参加者全員が疲れ切ってしまって,最後はおとなしくレクチャーを聞いてフェードアウトとなりました.




 3つのワークショップが終わって研究発表です.

 日本デザイン福祉専門学校の 高橋美帆 先生による『子どもたちの表現を促す音楽指導について〜アメリカの音楽始動事例をとおして〜』というタイトルの発表です.東京からの参加です.


 保育士養成課程で学ぶ学生のイメージする「子どもの音楽表現」が画一的で,ともすれば一方通行の指導に陥りがちであることに問題意識を感じていたそうです.

 「子どもたちの感覚に働きかけ,子どもたちの表現を促し,教師主導ではなくて教師の援助がメインとなる指導」の在り方を模索する中で,高橋美帆先生が米ロチェスター大学で受けた教員講習の内容が,まさに子どもたちの音楽表現を促す指導方法ではないかと考えたことが研究の背景だそうです.


 全米コア芸術標準(National Core Arts Standards 2014)の説明から,実際に受けた教員研修の内容を詳細に分析しながらの発表でした.


 子どもの興味や関心を自然に音楽活動の中に引き込んで「子どもの表現を促す指導」&「教師の援助」へと導くために必要なことは,指導者の音楽能力とは直接関係しないところで行われているそうです.





最後は兵庫教育大学大学院生によるパフォーマンスです.

1つ目のパフォーマンスは「TRUTH 〜真実〜 」






2つ目のパフォーマンスは「Goetterfunken 〜神々の火花〜 」








 その後に映像作品が2つ,

 1つ目の映像パフォーマンスは「U・つ・く・し」, 映像・音声の「逆再生」と「カメラオブスクラ」を用いた感覚の「ズレ」を楽しむパフォーマンスでした.


 2つ目の映像パフォーマンスは「ぞうのじかん・めずみのじかん」,大学の食堂で約30倍再生を前提でカメラを固定して撮影して,時間の経過の差異を表現するパフォーマンスでした.




 プログラムが終わって,奥忍 先生による講評


 ワークショップ,研究発表,パフォーマンスのそれぞれについて端的な評と共に素敵なアドバイス,さらに的確な分析に併せて心あたたまる感想がありました.


 最後に事務局の兵庫大学短期大学部 井上朋子 先生から感覚をつないでひらく芸術教育を考える会についての報告と事務連絡がありました.




 会場の兵教ホールの後片付けが終わって,懇親会がJR神戸駅西の高架沿いにある居酒屋「とれとれ海鮮 浜の大将 」で10名が,第11回の研究発表会が盛大に開催されたことの打ち上げと共に,約3時間にわたって親睦を深めました.

 最後に話題になったのが関西と首都圏の言葉・文化の違いから,関西の中でも大阪と京都では言葉や文化でいろいろな差異がある話に華が咲きました.

 「ソーリャ!、ソーリャ!」の威勢のよい掛け声とともに勢いよく角を曲がる「やりまわし」があり,死傷者も出る大阪・岸和田のだんじり祭りと,「コンコンチキチン,コンチキチ〜ン♪」の優雅な祇園囃子とともにゆったりと真夏の京都を約一か月間かけて練り歩く祇園祭りとの,2つの祭りのコントラストに盛り上がりました.

 「ソーリャ!、ソーリャ!」も「コンコンチキチン,コンチキチ〜ン♪」もそれぞれの祭りのキャラクターを的確に言い表している良いオノマトペだと感じました.