感覚をつないでひらく芸術教育を考える会
第10回 研究発表会



日時 2016年3月28日(月)

会場 第一部 研究発表 京都市北文化会館

   第二部 ワークショップ  河村能舞台



  感覚をつないでひらく芸術教育を考える会 第10回研究発表会が,午前中は京都・北大路の京都市北文化会館で基調提案と研究報告が行われ,午後からは場所を移して京都・室町の河村能舞台でワークショップというプログラムで開催されました.

 第一部は,地下鉄烏丸線の北大路駅に隣接するショッピングモール・北大路タウン内にある京都市北文化会館です.烏丸通りと北大路通りが交わる烏丸北大路交差点,大谷大学の北側になります.


司会は,光徳幼稚園の椋田敏史園長です。


 基調提案・オープニングは兵庫教育大学の初田隆先生です.


 オノマトペについて,オノマトペをふんだんに使ったコミックの紹介を交えて,オノマトペの魅力を伝える基調提案です。

 オノマトペを元にして子どもたちが描いた絵の紹介がありました。

 続いて参加者に実際にオノマトペを口ずさんでもらって,そのオノマトペが何を表すかを他の参加者に考えてもらうショートワークショップもあり、参加者をオノマトペの世界へ誘うオープニングでした.



 続いて研究報告です.

 最初は『「オルフ研究所」を訪ねて』 兵庫大学短期大学部の井上朋子先生です。


 オルフ楽器で有名なカール・オルフの生い立ちから,舞踏家ドロテー・ギュンターとの出逢いとギュンター・シューレの設立。

 そして第二次世界大戦後の1948年からバイエル放送局で放送された「子どものための音楽」の学校放送.その放送内容をまとめた「オルフシュールベルクT巻〜X巻」の出版。

 そしてザルツブルグ郊外に設立した「オルフ研究所」の経緯に関しての説明がありました.


 その後に,この春に井上先生がオルフ研究所を訪れて,子どもたちが授業に参加する「子どものためのクラス」等,実際にオルフ研究所の授業を受けた体験を踏まえた内容の報告でした.

 音楽と動き,音楽と言葉等,音楽・動き・言葉をキーワードを融合的に授業で取り入れ,実践面と理論面から学べるようになっているのがオルフ研究所の特徴だそうです.

 実際にオルフ研究所を訪れた素敵な体験の喜びが伝わってくる報告でした。参加者の方々も熱心に聞き入っていました.



 2番目の研究報告は『「総合的・領域的な芸術表現教育」の指導者養成に関する実証的研究』兵庫教育大学の初田隆先生,兵庫教育大学の木下千代先生,兵庫大学短期大学部の井上朋子先生,明石市立藤江小学校・兵庫教育大学連合大学院の大西洋史先生です.

 最初の発表は初田隆先生です.

 3年間の指導者養成のプログラムについて・・・
1年目は大学院対象の研修プログラム
2年目は教員対象の研修講座と、参加者による実践
3年目は教員研修プログラム、テキストの作成

 現在は2年目で、研修プログラムの状況と、実践授業の成果を交えての説明がありました。


 教員対象の研修プログラムに参加して、その後、勤務校で実践をした大西洋史先生からの実践報告です.

 実証的に子供たちに総合的な芸術表現を授業の中で取り組んだ事例の報告です。


 実践報告の中で紹介された児童の作品です。

 オノマトペ「ふりぼりばりぽり」を紙の上で表現すると・・・


そしてオノマトペ「ぽ」を絵に描いて表わすと・・・


共同研究者の木下千代先生から補足と、今後の研究の方向性についての話がありました。




 研究報告の最後は、兵庫教育大学大学院生によるパフォーマンスです.

 これまでの研究会では,実際に大学院生が,グループごとにパフォーマンスを行うのですが,今回・第10回の研究会では,午後から河村能舞台に場所を移してワークショップというスケジュールなので,時間の制約でビデオでパフォーマンスを収録したものをプロジェクターで紹介しました.

 プロジェクターによる3つのパフォーマンスの紹介後,パフォーマンスをした大学院生の紹介がありました.


 3つの研究報告が終わって・・・奥忍先生による評です.急に振られたと前置きをされながら、学生のパフォーマンスに対して,端的で且つ的確,そして素敵な評と提案,更に夢のある助言をされました.

 そして、総合的な芸術表現全般に関しての示唆に富んだ話をしていただきました。



お昼休みを挟んで地下鉄烏丸線の駅で南へ2つ目,同志社大学室町キャンパスや上立売通の北側にある河村能楽舞台でのパフォーマンスです.

 河村能舞台は,烏丸通りに面した,ごく普通の民家のような外観です.


 入口には「河村能舞台」と書かれた大きな木の表札



 中に入って、玄関脇には石碑「初心不可忘」

 能の始祖は、風姿花伝によれば秦河勝(はたのかわかつ)、そして能を大成したのが世阿弥と言われています。世阿弥の著作である「花鏡」には、

「しかれば当流に万能一徳の一句あり。 初心忘るべからず。この句、三ヶ条の口伝あり。

是非とも初心忘るべからず
  是非によらず、修行を始めたころの初心の芸を忘るべからず
時々の初心忘るべからず
  修行の各段階ごとに、各々の時期の初心の芸を忘るべからず
老後の初心忘るべからず
  老後に及んだ後も、老境に入った時の初心の芸を忘るべからず

この三、よくよく口伝すべし。」
 
世阿弥の言う「初心」とは「段階ごとに経験する芸の未熟さ」のことであって、「未熟な時代の経験」や「ぶざまな失敗やその時の屈辱感」を忘れないようにということで、「初心を忘れたら初心に戻る」という意味です。常に自らを省み、そして戒めることによって、「常に上達しようとする姿」を持ち続けること・・・


 座敷を通って・・・能舞台です.


 第二部のワークショップの講師は,河村晴久氏です.


 河村晴久氏は能楽師・観世流シテ方,重要無形文化財「能楽」総合認定保持者であり,同志社大学の客員教授をされておられます.

 能舞台の前で,能の歴史的な背景や経緯の話から,能についてのイントロダクション


 世阿弥と足利義満の話から,シテとワキの話.

 その中で所作や立ち居振る舞い等の動作の話になって,立ち上がって能舞台の上から姿勢や動作について、身振り手振りを交えての説明です.


 続いて,扇を手にして実際の「舞」の形についての実演と説明がありました.


 河村晴久氏の説明に続いて,参加者が能舞台の上で体験実習をするワークショップです.

 お手伝いをいただく大学生の方々です.


 能舞台は神聖な処であり,また糠袋で磨いた舞台の保護もあって,白足袋を装着し,また装飾品は外して能舞台に上がるという心構えの話がありました.

 まず、参加者約40人の半分が能舞台に上がって実演指導です.


 立ち居振る舞いが美しく様(さま)になっている河村晴久氏の所作を,参加者の方々が実演,熱心に姿勢や動作を体験しています.


 扇を持って,「構え」という重心を低く落として力を溜めて立つ姿勢も,その形を実際に身体で表現するのはむつかしく,参加者の方々は時間をかけて稽古していました.


 そして「構え」の姿勢のまま,ゆったりと優雅に歩く「運び」の稽古です.


最後に,能のいろいろな動作・身体表現についての説明をしながらの実演です。


 残りの半分の方々が能舞台に上がって入れ替えとなります.


 いままで見所で,能舞台の上の様子を見ながら一緒に身体を動かしていましたが,改めて能舞台の上で「構え」の姿勢となります.

 レンズを通して見る河村晴久氏の「構え」は、落ち着いて美しいと感じ、立っているだけの姿勢が絵になり、何度もシャッターを押しました。


 基礎・基本の「構え」の姿勢についてのアドバイス,扇の持ち方等々について,個別の丁寧な指導がありました.


 後半のグループの「運び」の稽古です.


 「身体表現」というと,喜怒哀楽等の感情に応じた身体の動きや声を用いて表現することをイメージしますが,能の「舞」では喜怒哀楽等の感情を,同じ動作で演じ分けるそうです.


 能舞台の上での実演指導が終わった後に,ワークショップでの体感を踏まえたレクチャを能舞台上から身振り手振りを交えて・・・


 更にシテとして「舞」の一挙一動を交えながら丁寧に身体表現の話をされました,


扇を広げて舞う姿は,表現が豊かになり,迫力のようなものを感じます.


 目付柱やワキ柱は,能面をつけて視野が極端に狭くなった演者の目印となるそうです.6m四方の能舞台の上で,いろいろと演じ分けて,その時々の立ち居振る舞いについての説明は,大変わかりやすかったです.


 そして見所で立ち上がって,再び所作や身のこなしの稽古.

 能に関するレクチャーを受けて,その後に能の動作の説明があって,そして能舞台でのワークショップでの実演,再び実演での体験を踏まえての説明があって,そして身のこなしの稽古.参加者の姿勢や動きも「様(さま)」になってきたように思います.


 所作に続いて謡,

「緑樹影沈んで、魚木に登る気色あり。月海上に浮かんでは、兎も波を奔るか。面白の島の景色や」

 謡曲「竹生島」の稽古,楽譜がないので,河村晴久氏の謡に続いて抑揚や調子を真似ての口伝えの稽古です.


 最後は能面・「面(おもて)」についての説明です.


 海外には仮面(mask)があり,仮面は顔を覆って正体を隠すために用いていますが,面(おもて)をつけて舞うと,心の内面が面(おもて)に出るとのこと.

 ・・・能面は,舞う演者の心を顕わすそうです.


 時間いっぱいまで使ってのレクチャーとワークショップでしたが,時間を大幅に超えて質疑応答の時間をとっていただきました.

 再び能舞台に上がって実演を交えながらの説明もありました.


 河村能舞台のある京都・室町は,室町時代に幕府があった要所です.

 河村能舞台と上立売通を挟んで南にある同志社大学室町キャンパス・寒梅館(法科大学院やレストラン)の場所は,足利義満の私邸「花の御所」があった処だそうです.


 そして烏丸通りを隔てて東側には「相国寺」があります.「相国」とは太政大臣の唐名で,義満の創建です.義満は,此処で太政大臣として公家のトップとして政(まつりごと)を行ったようです.征夷大将軍,太政大臣として武士,公家のトップに留まらず,寺社も掌握していたとも言われています.


 相国寺の北には,上御霊神社があり,「応仁の乱勃発地」の石碑がありました.


 研究会があった3月28日の京都は,3分咲きから7分咲きでしたが,上御霊神社境内の桜は満開でした.


室町にはかつて「花の御所」があり、そして隣には相国寺、南には御所、西へ少し足を延ばすと、加茂川と高野川が鴨の流れとなって合流する地点。

 加茂川と高野川に挟まれた「糺ノ森(ただすのもり)」、此処に下鴨神社があります。

 義満の時代に世阿弥によって大成した能、その能の伝統を受け継いだ室町あたりの京の風景です。