「早来迎」と「茶室の月光」


±ART2014 旧・木下邸 in 舞子,2014年03月27日


神戸の舞子公園内に保存・公開されている旧・木下邸での現代アートの展示会である『±ART2014』に再訪問しました。

・「早来迎」の彫刻と,茶室の「月光」をもう一度見たい。
・広角のレンズで,もう一度,旧・木下邸と,アートの数々を撮りたい。

 前回は,雨の降る肌寒い夕方でしたが,今回の再訪問は,春めいた朝でした。

 旧・木下邸の入口,右奥に見える石段を上ると,玄関に至ります。


 入口と,邸宅の玄関との中間点です。萌え出る春の,若々しい淡い緑が春の優しい陽光で輝いています。


 前庭からの旧・木下邸の全景です。


 玄関の3畳の間が受付です。


 数年前に,国の登録有形文化財に指定されています。


 邸宅の東側は,台所や浴室等の水回りが配置されています。この奥の離れに女中部屋があります。


 洗面と,その奥の奥の浴室のスペース,なんだか寛げる感じです。


 此処が,朝の洗面や,お風呂に入るときに着替えるスペースだったようです。


 なんとなくモダンな雰囲気の浴室です。


 玄関先の廊下の突き当たりには,古い電話機がありました。


 玄関から表座敷の北側の縁側を見通します。左手が表座敷と前提がある南側で,右手が北側で,中庭があります。


 中庭に面した一室では,いしかわゆかさんの作品「Translucent Air 」の展示。


そして中庭に面した縁側,左手の襖の向こうが表座敷です。


 表座敷,その向こうに広縁,そして前庭。左手には床の間があり,旧木下邸の鳥瞰図・・・青山大介さんの作品が掛け軸にもして掛かっています。右手の座敷には,新山浩さんの作品「早来迎」の彫刻が,存在感を示しています。


 表座敷の床の間です。

 今回,此処・旧木下邸で現代アートの展示会が開催された切欠は,鳥瞰図を描いておられる青山大介さんがネットを通して,旧木下邸の最初の住人であった又野さんとのネットでの出逢いに遡るそうです。

 先週の連休にはワークショップが持たれ,又野さんも来られて屋敷内の案内役をされてたそうです。

 掛け軸の脇には,元町商店街にあった海文堂という書店の鳥瞰図です。


 床の間の前から見た表座敷・・・右手が縁側越しに中庭となり,左手の隣接する座敷には,京都・東山の知恩院所蔵の「早来迎」(はやらいごう)の来迎図を彫刻で表現した巨大な作品があります。


 来迎とは、浄土信仰において、臨終に際した往生者を極楽浄土に迎える為に、阿弥陀如来が雲に乗って、菩薩や天人を引き連れてやってくることだそうです。この様子を描いたのが来迎図です。

 浄土宗の総本山、京都・東山にある知恩院所蔵の来迎図として「早来迎」(はやらいごう)[Rapid descent]があります。正式名称は阿弥陀二十五菩薩来迎図です。本意の来迎は、穢土(現世)を厭離して浄土(極楽)へ入ることを願い求める浄土信仰の世界観において、隔離された極楽と娑婆とを結ぶ道(path)という意味があります。それに対して、早来迎が描く来迎は、浄土と穢土とを結ぶ雲がひじょうに急角度であり、この急な角度故にスピード感があることが,早来迎と呼ばれるようになった所以だそうです。


 早来迎を所蔵する知恩院は,浄土宗の開祖・法然が開基した総本山ですが、この早来迎は、法然の弟子である証空の影響を受けて描かれたものではないかという説があります。

 証空は、西山派と言って天台本覚寺思想の影響を受けているといわれています。浄土(極楽)と穢土(現世)とを対立的に捉える法然の浄土信仰に対して、法然の高弟で浄土信仰を継承する立場にありながら、証空は浄土と穢土に関して絶対的一元論の立場をとる本覚思想の往生観に近い信仰を持っていたようです。西山派は、「信の一念によって往生は決まる」という立場で、信の一念を得れば成仏するという「須臾(しゅゆ)の間」,つまり瞬間に此岸(娑婆)が浄土と化すことを表す・・・,まさに早来迎(Rapid descent)の雲が急角度となってスピード感を表していることそのものです。


 早来迎(Rapid descent)の急角度な雲が醸し出すスピード感は、本覚思想の「穢土即浄土」や「常寂光土」、そして「一切成仏悉有仏性」の影響を受た西山派の証空が、阿弥陀・衆生一体論の立場で描かせたという説に頷けるものを感じます。


 そして早来迎が描いているのは,信の一念を得て雲に乗って彼岸での成仏を「須臾の間」に果たした後に,再び此岸(現世)に帰還して衆生に信仰を行き渡らせる・・・大乗仏教の目的そのものを描いているとも言えます。


 来迎図だと裏に廻って鑑賞することができませんが,彫刻の「早来迎」はいろいろな角度から見ることができます。逆光気味の裏・早来迎です。


広縁の東の端に洋室・応接間があります。淡い色が基調で,落ち着く感じの空間です。


 ガラス越しに前庭を見渡すことができます。


 広縁に机が置かれていました。先週末には,ここでワークショップが持たれていたようで,その名残のようです。


 広縁の西の端には書院があります。谷口和正さんの「After the rain」です。和室の障子越しの優しい光の中で・・・




書院の隅には,谷口和正さんの作品「RE:BIRTH」が並んでいました。


西室には,旧木下家住宅 建築模型があります。先週訪れた時には,図面の上に材料が置かれていただけでしたが,ちょっと出来ていました。3年越しの完成を目指しているそうです。


 茶室前の洗面スペース,なんだか良い感じです。


 「古き良き時代」というフレーズが思い浮かびました。


 前回訪れた時には,茶室の待合の部屋は,新山浩さんの作品「山」があったのですが,先週のいしかわゆかさんのワークショップの作品に入れ替わっていました。


 そして茶室です。谷口和正さんの作品「When you are the only one」と,「moonlight/shadow」です。茶室の中が月明かりで満たされています。


 前回よりも広角のレンズがついたカメラで撮ったので,茶室全体の雰囲気が伝わるのではないかと思います。


 ローアングルから,仰ぎ見るように・・・


 更にローアングルから,天井を・・・


 床の間の光も視野に入れて・・・


 アングルを変えて・・・


 今度は上から鳥瞰するようようなアングルで・・・


 縦構図で,畳から天井まで,茶室全体を舐めるように・・・


 床の間の光・・・


 更にいろいろアングルを変えて・・・


 違った方向からのローアングルです。


色温度の高い茶室の中の光に目が慣れると,外の世界が赤っぽく感じます。


 前庭の谷口和正さんの作品「RE:BIRTH09」です。


 背景に,明石海峡大橋の主塔を写し込んで・・・


 前庭から見た,早来迎も,また迫力を感じました。


 旧・木下邸の北東にある勝手口,すぐに山陽電車の線路があり,歩行者用のトンネルがあります。レンガ風の作りのトンネルです。


 トンネルの向こう側には,住宅地が広がっています。

 JR舞子駅・・・なんだか懐かしい感じに,ついシャッターを押してしまいました。